法律をあざ笑う者
1924年、アメリカが禁酒法のど真ん中にいた頃の話です。
お酒を飲むことが、法律で禁じられていました。
そんな中、マサチューセッツ州の銀行家デルシヴェア・キングという人物が、ボストン・ヘラルド紙を通じてある懸賞を告知しました。
「禁酒法を無視して飲み続ける不届き者を指す言葉を募集します」
というもので、賞金は200ドルの金貨。
25,000件以上の応募の中から当選したのが
「Scofflaw(スコフロー)」
scoff(あざ笑う)+law(法律)
という言葉でした。
熱心な禁酒法支持者のキングの狙いは「この言葉で違反者を恥じ入らせる」ことでした。
ところがむしろ酒飲みたちがこの言葉を気に入ってしまった。
当選発表からすぐに、パリのバーテンダーたちがさっそくこの名前をカクテルにつけはじめました。
別の新聞社がこれを「パリが酒で反撃した」と報じています。
アルコールなんてものを飲むような不届き者を侮辱するためにつくった言葉を、その酒飲みたちがクールな酒の名前に変えてしまった。
とても反骨的でエスプリの効いた切り返しです。
酒を愛する人たちの憤りが、そこに込められているような気がしてちょっと胸が熱くなります。
禁酒法から逃れるようにパリに集まっていたアメリカ人たちの間で、このカクテルはたちまち人気になりました。
禁酒法が終わった後は長らく忘れられていましたが、2000年代のクラフトカクテルリバイバルで再発見され、現在は多くのバーの定番として復活しています。
名前の皮肉っぷりに惚れたので、つくってみることにしました。
当時のレシピで試作
オリジナルレシピ(1924年頃)
- カナディアンクラブ 30ml
- ノイリー・プラット 30ml
- レモンジュース 15ml
- グレナデンシロップ 15ml
- オレンジビターズ 1dash
シェーク/カクテルグラス
まずはオリジナルに近いレシピでつくってみました。
当時のパリのバーに並んでいたであろうカナディアンクラブと、フランス生まれのノイリー・プラットで。
ただ、カクテルブックでこのレシピを見かけても、正直なところ脊髄反射でスルーするレベルの組み合わせです。
ウイスキー、ドライベルモット、グレナデン。
古いカクテルブックをパラパラめくると、似たような組み合わせがいくつも出てくる。
古典も古典すぎて、「これはつくらなくていいな」と無意識に判断してしまう。
実際につくってみると美味しいは美味しい。ただ、記憶に残らない。
平坦な味わいで厚みがない。チープな駄菓子感が強く、現代の味覚では物足りずに埋没してしまう気がしました。
現代風に再構築
スコフロー(現代版)
- オールド・オーバーホルト 30ml
- マンチーノ・ビアンコ 30ml
- レモンジュース 5ml
- グレナデンシロップ 5ml
- オレンジビターズ 2dash
スローイング/カクテルグラス
当時のレシピのままではオススメできないので、なるべく現代でも通用するように勝手ながら再構築してみました。
ベースはカナディアンクラブでは骨格が足りないと感じたので、ライウイスキーに変えることにしました。
ベルモットもノイリー・プラットではボディが足りないので、フランス生まれのカクテルということでリレ・ブランも試してみましたが、やはり薄い。
フランスは諦めて、甘みと風味がしっかりしたマンチーノ・ビアンコに落ち着きました。
ライウイスキーはいくつか候補がありましたが、今回はあえてこの一本を選びました。
禁酒法下でも、薬用としての認定を受け、法の目をかいくぐって販売していた銘柄。
しかもそのオーナーは当時の財務長官。
禁酒法を取り締まる側の人間が、自分の蒸留所を薬用として営業させていた。
「法をあざ笑う者」という名のカクテルに、これ以上ふさわしいベースはないと思いました。
オールドオーバーホルトについてはこちらで詳しく記事にしています。
現代版の味わい
ドライベルモットから、当時はあまり使われなかったビアンコに変えたことで、平坦だった味にボリュームが生まれ、ハーブの風味も感じられるようになって奥行きが出ました。
シェークだとボンヤリして、ステアだと酸味が尖り過ぎる。スローイングにしたことで味に輪郭が出て、最後まで飲み飽きないバランスになりました。
100年前、飲酒を否定するためにつくられたはずの言葉が、カクテルの名前として残っている。
史上最大の悪法と言われた禁酒法が、スピークイージーを生み、カクテル文化を加速させ、こんな名前のカクテルまで生み出した。
とても皮肉がきいた最高の副産物ではないでしょうか。




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