テキーラ・サンライズといえば、みんな知ってるオレンジとグレナデンのカクテル。
鮮やかな見た目と飲みやすさで、今でも人気があります。
ところがオリジナルは、全然違います。
名前だけ同じで、中身はまったく別のカクテルです。
テキーラ・サンライズ(オリジナル)
-
テキーラ
30ml -
フレッシュライムジュース
10ml -
ソーダ水
適量 -
クレーム・ド・カシス
15ml
手法:テキーラ+ライムをシェーク → 氷入りコリンズグラスに注ぐ → ソーダ → カシスをそっと沈める グラス:コリンズグラス
今のテキーラ・サンライズよりもドライでキレのある味。
カシスの味のグラデーションを楽しみながら、スッキリ飲めるカクテルです。
2つの起源、どちらも禁酒法時代
テキーラ・サンライズの誕生には、2つの説があります。
ひとつはアリゾナ州フェニックスの高級リゾート、アリゾナ・ビルトモア・ホテル発祥という説。
バーテンダーのジーン・スリットがプールサイドの常連客から「テキーラで何か面白いものを」と頼まれ、つくったと言われています。
ただし、禁酒法が続いていた1930年代のビルトモアには、正式なバーが存在していなかったという指摘があります。
もしスリットが本当にこの時代につくっていたとすれば、それは公式メニューではなく、プールサイドで常連客にこっそり出していた「裏メニュー」だった可能性があります。
もうひとつは1930年代、メキシコ・ティフアナのリゾート「アグア・カリエンテ」発祥という説。
禁酒法(1920〜1933年)のさなか、合法的に酒が飲めるメキシコへ国境を越えて逃げ込んできたアメリカ人たちが集まった、カジノ付きの巨大リゾートです。
ここのメニューにこのカクテルが載っており、「A Fascinating Tequila Fantasy(魅惑的なテキーラの幻想)」というキャッチコピーで紹介されていたと言われています。
どちらが先かはわかりません。ただ、どちらの説であれ、禁酒法時代に生まれたカクテルだったことは確かです。
名前を乗っ取られた
時代は流れて1970年代。
カリフォルニア州サウサリートのレストラン「トライデント」。
当時アメリカ中で最もテキーラが売れている店として知られていたこの場所で、バーテンダーのボビー・ラゾフとビリー・ライスが全く違うレシピをつくりました。
テキーラ+オレンジジュース+グレナデン。
グレナデンをオレンジジュースの中に沈めることで、同じ日の出のグラデーションを再現した。
「シンプルに、誰でもどこでもつくれるように」。
それがラゾフ自身が語った意図でした。
そしてこの新しいカクテルに、彼らは既存の名前をそのまま使った。
ビジュアルのコンセプトは同じ、中身は別物。
この全くの別物になったテキーラ・サンライズには、すぐに転機が訪れます。
1972年、トライデントで開かれたローリング・ストーンズのプライベートパーティ。
その夜、ミック・ジャガーがこのオレンジ版テキーラ・サンライズを一口飲んで気に入り、全米ツアー中ずっと飲み続けた。
名前を乗っ取られ、中身をまるごとすり替えられたまま、世界最大級のロックバンドに担ぎ出されてステージに上がってしまった。
シンプルでつくりやすく、見た目も派手。
おまけにロックスターのお墨付き。
オレンジ版はあっという間に広まっていきました。
翌年には、それに目を付けたクエルボがボトルのラベルにオレンジ版のレシピを印刷し、アメリカ中に普及させます。
そして同年1973年、とどめとばかりに、イーグルスが楽曲「テキーラ・サンライズ」をリリース。
カシスを使ったオリジナルのテキーラ・サンライズは、完全に舞台袖へ追いやられました。
悪魔のカクテル、エル・ディアブロ
エル・ディアブロ
-
テキーラ
30ml -
クレーム・ド・カシス
15ml -
フレッシュライムジュース
10ml -
ジンジャーエール
適量
手法:テキーラ+カシス+ライムをシェーク → 氷入りコリンズグラスに注ぐ → ジンジャーエールで満たす グラス:コリンズグラス
スペイン語で「悪魔」の名を持つこのカクテル、オリジナルのテキーラ・サンライズと酷似しています。
テキーラ・サンライズとエル・ディアブロの直接の関係はわかりません。
テキーラとカシスの相性がとても良いので、自然と似たような組み合わせは生まれるものです。
ですがもしかしたら、悪魔に魂を売って生まれ変わったのかもしれない。
オレンジ色のカクテルが世界的スターになった陰に隠れ、名前を奪われて、中身は別のものにかえられて、オリジナルはまだ誰にも気づかれないまま。


コメント