- 種別:ジン / ロンドンドライ / イングランド
- ボタニカル:10種(標準ビーフィーターの9種+グレープフルーツピール)
- アルコール度数:50度
- 価格:10,000円前後(1000ml)
ロンドンドライジンの中でも特にメジャーなブランドのひとつ、ビーフィーター。
そのビーフィーターが手がけるジンの中で、最高峰に位置するのがこのクラウンジュエルです。
「クラウンジュエル」と「ビーフィーター」の名前の由来
クラウンジュエルとは、ロンドン塔に保管されているイギリス王室の至宝のことです。
王冠・王笏・宝珠など、戴冠式に使われる宝飾品の総称で、世界有数の宝飾品コレクションと言われています。
このジンを製造するビーフィーターは現在でもロンドン市内でジンの製造を続ける伝統的なブランド。
名前の由来になっているビーフィーターとはそのロンドン塔を守る近衛兵の愛称で、正式名称はヨーマン・ウォーダーズといいます。
かつて国王主催のパーティーで残った牛肉を持ち帰ることを許されていたことから、「ビーフ(牛肉)をイーター(食べる人)」と呼ばれるようになったと言われています。
現在もビーフィーターたちはロンドン塔を守護しており、就任には22年以上の軍歴・准尉以上の階級・長期勤続および善行勲章の受勲という厳格な条件が求められます。
単なる警備員ではなく、国家に長年貢献した熟練の軍人だけが選ばれる名誉ある職です。
ジンのラベルに描かれた彼らの姿には、こうした本物の誇りと実績が込められています。
クラウンジュエルの盗難とイギリス史上最も珍妙な結末
1671年、クラウンジュエルが実際に盗み出されるという事件が起きました。
犯人のトーマス・ブラッドは管理人を襲い、持ち運びやすくするために王冠を木槌で叩いて平らにし、王笏を半分に切断しようとしました。
逃走途中に捕らえられましたが、なぜかチャールズ2世に気に入られ、処刑されるどころか無罪放免になるという奇妙な結末を迎えました。
この事件が王室に突きつけた教訓は「国家の至宝が、たった一人の老管理人に委ねられていた」という恐ろしいほどの警備の甘さでした。
王室は警備体制を根本から強化。
こうしてロンドン塔の近衛兵ビーフィーターの任務は、単なる塔の番兵から「クラウンジュエルを死守する国家の守護者」としての色をより強めていくことになります。
現在のジュエルハウスは100台以上の監視カメラと24時間体制の巡回、防弾ガラスによってブラッドの時代とは比較にならないほど厳重に守られています。
終売から復活へ
1993年に免税店限定で発売されたこのジンは、2009年に一度廃番になります。
同年、マスターディスティラーのデズモンド・ペインがクラウンジュエルのレシピをベースに日本茶と中国茶を加えた「ビーフィーター24」を開発。
クラウンジュエルはその登場に伴い、プレミアムラインの座を譲る形で終売となりました。
ところが復活を望むファンの声が多く、2011年・2015年と限定復活を繰り返し、2022年に正式にコアレンジ入りを果たしました。
廃番になって伝説になり、伝説になって復活した一本です。
10番目のボタニカル
標準のビーフィーターはジュニパー・コリアンダー・レモンピール・オレンジピール・アンジェリカルート・アンジェリカシード・オリスルート・リコリス・アーモンドの9種のボタニカルを使用しています。
クラウンジュエルはここにグレープフルーツピールを加えた10種構成です。
たったひとつの追加ですが、これが50度という高い度数に負けない爽やかさをもたらし、シルキーな口当たりを生み出しています。
多くのジンが蒸留時に蒸気でボタニカルの香りを抽出するヴェイパーインフュージョンか、短時間で浸漬する方法をとる中、ビーフィーターはボタニカルをスピリッツに24時間かけてじっくり漬け込みます。
多くのジンよりも格段に長い浸漬時間が、奥行きのある香りの理由です。
ちなみにビーフィーター24という名前もこの24時間浸漬にちなんでいます。
ボトルデザインとワタリガラスの伝説
現行のボトルはロンドン塔で守られるルビーをイメージした深紫色のスクエアボトルです。
ボトルには宝珠(オーブ)を掴んで舞い降りるワタリガラスが描かれています。
ロンドン塔には「ワタリガラスが塔を去ると、王室と王国が崩壊する」という伝説があり、現在もレイヴン・マスターという専任の世話役が8羽のカラスを管理しています。
クラウンジュエルの味わい
非常にドライで苦味やアルコールのキレがしっかりあり、いかにも「ジン」という感じの力強い味。
特に柑橘を強く感じるとかそういう個性を感じるわけではなく、純粋に美味しいジンだと感じました。
タンカレー No.TENのようにフレッシュな柑橘の上品さを出すわけでもなく、クラフトジンのように何かしらのボタニカルが主張するわけでもなく、奇をてらわずにロンドンドライジンの基本に忠実に丁寧につくられた一本という印象。
約24時間かけて浸漬された10種のボタニカルが過不足なく重なり、50度というアルコールがそこにどっしりと厚みを加える。
正統派ロンドンドライジンの、お手本のような一本です。
現行のビーフィーターやゴードンなどの度数が40度程度に下げられた今、正統派なマティーニをつくるベースの候補にもなるのではないでしょうか。
守護者の誇りを50度に込めた、ロンドンが生んだ最高峰の一杯です。



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