27杯目!「エライジャ・クレイグ スモールバッチ&エヴァン・ウィリアムズ ブラックラベル」〜優等生な味わい、そのルーツは問題児〜

エヴァンウィリアムス エライジャクレイグ アメリカンウイスキー

バーボンには、2人の父親がいる。
1人は密造で訴えられた悪党、もう1人は投獄された聖職者。
2人とも、なかなかの問題児です。
でもその懲りない熱意が、焦げ茶色の傑作を生み出します。

エヴァン・ウィリアムズ ブラックラベル

種別:ウイスキー / アメリカン / バーボン / ケンタッキー
容量:700ml〜750ml
度数:40度
価格:1,500〜2,000円前後

エライジャ・クレイグ スモールバッチ

種別:ウイスキー / アメリカン / バーボン / ケンタッキー
容量:750ml
度数:47度
価格:3,500〜4,500円前後

どちらもバーボンの礎をつくったとされる人物の名を冠した、Heaven Hill社が生産するバーボンです。
同じ原酒を使いながら、樽の選定や熟成年数などで異なる個性に仕上がっています。


エヴァン・ウィリアムズという人物

1783年、ケンタッキー州ルイビルのオハイオ川沿いで、最初にトウモロコシの蒸留酒をつくった人物とされています。
ただ、そのキャリアはなかなか破天荒です。

1783年頃には密造を開始したとされ、1788年には無許可でのウイスキーの蒸留または販売を理由に、大陪審に起訴されたという記録があります。

そんなエヴァンですが、起訴から数年後の1797年には、ルイビル初の公選理事会のメンバーに選ばれ、同じ年に港湾管理人にも任命されています。

出世の手段もウイスキーでした。
当時のフロンティア社会では、選挙活動で有権者にウイスキーを振る舞うのはお決まりの手法だったと言われています。
密造で起訴された男が、酒で票を買って街のトップへ。なかなかの豪傑です。

正式に連邦の蒸留免許を取得したのは1801年のこと。
起訴から13年後、蒸留開始からは18年も経ってからです。

しかし、ようやく免許を取得した翌年の1802年には、蒸留所からの排水が水質を汚染したなどの近隣トラブルを抱え、蒸留所を閉鎖させられてしまいます。

その後、蒸留を再開したのかどうかはわかっていません。


エライジャ・クレイグという人物

一方、エライジャ・クレイグはバプテスト派の牧師で、はじめて内側を焦がした樽でウイスキーを熟成させたことで知られています。
牧師というと穏やかな人物像を想像しがちですが、こちらは起訴どころか投獄されています。それも2回。
当時バージニア州で公認されていたイングランド国教会以外の宗教を布教したとして、クルペパー郡とオレンジ郡でそれぞれ逮捕・投獄された記録が残っています。
しかも牢獄の中でもめげなかった。
ライ麦パンと水だけを与えられながら、格子越しに外の群衆へ説教を続けた。
信者たちが刑務所の外に集まって、格子の向こうの牧師の声に耳を傾けた、なんて話まであります。

ケンタッキーへ移住した後のエライジャは、牧師業の傍らで驚くほどの事業を展開します。
1789年、ジョージタウンのロイヤル・スプリングスに蒸留所を建設。
さらには製紙工場(ケンタッキー州初とされています)、製粉所、ロープ製造工場も手がけたと伝わっています。
ジョージタウン・カレッジの前身となる学校の設立にも携わったと言われています。
牧師というよりは、街ごとつくってしまった連続起業家です。

そして晩年は、多額の借金と訴訟まみれでした。
4,000エーカー以上の土地を持ちながら、税金も払えず、亡くなるまで借金の取り立てが絶えなかったそうです。


火事からうまれた酒

エライジャ・クレイグが「バーボンの父」と呼ばれる理由は、内側をチャー(焦がし)した新樽でウイスキーを熟成させることを発見したとされているからです。

エライジャ・クレイグの使っていた樽があるとき火災で燃えてしまいました。
本来なら廃棄するところを、もったいなく思ったエライジャはそのまま使用します。
そして長く放置していたらとても美しい琥珀色の液体になり、味も香りも良くなった。
これがよく言われるチャーの発見です。

オーク材を焦がすと、木の中の成分が変化し、バニリンと呼ばれるバニラの風味の成分や、糖分が焼けてできるカラメルの香りなどが生まれ、バーボン特有のバニラ香や甘さ、香ばしさなどの個性をつくります。

しかしこれには諸説あって、魚を運んできた中古樽の臭みを消すため、内側を焼いた。
なんて説や、砂糖を入れていた樽の再利用の為に樽を焼いた。
なんて説もあります。

どれが本当かは誰も知りません。
そもそも焦がした樽を最初に使ったのはエライジャだったという記録自体、確かな一次資料があるわけでもないと言われています。
しかし今日ではエライジャはバーボンの父と称され、内側をチャーした新樽で熟成することはバーボンのルールとして定められています。


火災で失われた酒

1996年11月7日、両者を製造するHeaven Hill蒸留所に、嵐が来ました。
時速75マイル(約120km)の強風と激しい雷雨。
落雷か、強風で電線が建物に接触したか、原因は今も正確にはわかっていません。

午後2時頃、Heaven Hill蒸留所の貯蔵庫から出火。
最初の報告から15分で全焼。
燃えたバーボンが丘を流れ下り、次々と隣の貯蔵庫へ延焼していきました。
現場にいた従業員は「火の川だった」と表現しています。
炎は約90〜120m上空に達し、37km先を飛ぶヘリコプターから視認されました。

4時間で7棟の貯蔵庫が焼失。
90,000樽——当時の世界のウイスキー供給量の約2%——が灰になりました。
しかも蒸留設備そのものも全焼し、つくる場所ごと失いました。

それでも、死者はゼロ。負傷者もゼロ。
蒸留責任者のクレイグ・ビーム——あのビーム家の一族です——が無線機を持って飛び出すと、従業員の安全を最優先に的確な指示を出し、全員を避難させました。
雇用は守る、必ず再建する。そう明言し、リストラも一切なかった。
さらにバーボン業界の各社が支援を申し出て、別拠点での生産継続を支えました。
1999年にルイビルのバーンハイム蒸留所を買収して復旧しました。

しかし原酒の焼失の影響もあり、原酒不足と需要増加のため、2016年にエライジャ・クレイグはノンエイジに変更されました。
火事から始まったバーボンが、200年後に再び炎に飲まれ、12年の年数表記が消えました。
美味しかったので残念です。


味わい

エライジャ・クレイグ スモールバッチ
しっかりと甘味と重厚感のある味。

・ストレート
とろみを感じるようなコク。
完熟したバナナのような風味に、やや力強いアルコール感。
甘いが喉を焼く感覚がしめるので甘ったるくなく、心地いいキック。
個性はあまりないが、上等なバーボンの貫禄を感じるバランスタイプです。

・ソーダ割り
普段からよく飲んでます。
コシが強く、割ってもバーボンの風味がしっかり残る骨太な一杯。
バーボンのハイボールとしては、かなり理想的なバランスだと思います。

エヴァン・ウィリアムズ ブラックラベル

同じ原酒のはずなのに、こちらはずいぶん薄味な印象。

・ストレート
結構あっさり。
甘さはあるけれど、ややドライ。
同じバナナでも、まだ青いバナナのような風味です。
余韻も短く、正直ちょっと物足りない。
炭のような黒地に金縁のラベルがかっこいい。

・ロック
さらに薄く感じます。
同価格帯のフォアローゼズやI.W.ハーパーと比べると、味では少し見劣り。
そこをボトルのかっこよさが補っている。

・ソーダ割り
薄味なので元の味はもうわからないけれど、さっぱりして爽快感があり悪くない。
レモンピールともよく合う。
ライトで飲みやすすぎるので、ボトルのかっこよさに見とれているうちに、気づけば空になっています。


2人の問題児が、バーボンという酒をつくった。
起訴されようが、火事で樽が焦げようが、酒だけはつくり続けた。
90,000樽が燃えても、なんとか立て直した。
その執念が、今日も焦げ茶色のお酒をグラスにとどけます。

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