1844年創立のバミューダの名門ヨットクラブの名を冠していながら、当のクラブのメニューには存在すらしていない。
そんな、名前だけが世界へ一人歩きしてしまった不思議なカクテル、「ロイヤル・バミューダ・ヨットクラブ」をご紹介します。
ロイヤル・バミューダ・ヨットクラブのレシピ
- バルバドスラム … 30ml
(マウントゲイ エクリプス) - ヴェルヴェット・ファレナム … 10ml
- コアントロー … 10ml
- ライムジュース … 10ml
手法:シェーク / グラス:カクテルグラス
ロイヤル・バミューダ・ヨットクラブとは
ロイヤル・バミューダ・ヨットクラブは、1844年にイギリス軍将校と地元の船乗りたちによって設立された由緒ある英国系ヨットクラブです。
1845年にアルバート王子がパトロンに就き、翌1846年に「ロイヤル」の称号が与えられました。
そのクラブの名を冠したこのカクテルは、1941年のカクテルガイドに初登場。
記者のメアリー・メイボンがロイヤル・バミューダ・ヨットクラブで出会ったお気に入りとして「島で最も優れたラムドリンクのひとつ」と紹介したのが始まりです。
ただ当時のレシピはかなり曖昧で、バルバドス産のラムを使う点以外は今とは違っていたようです。
天才の誕生
1947年、あるバーテンダーがロイヤル・バミューダ・ヨットクラブで曖昧だったこのメイボンのレシピをいじくり回し、今の形に完成させました。
仕上げた瞬間に思わずこう叫んだと語っています。
“By God, I am good!”
「神に誓って、俺は天才だ!」
自分の才能を確信したこの人物こそが、後に伝説のカクテル「マイタイ」を生み出し、世界中にエキゾチックカクテルの旋風を巻き起こしていくことになるバーテンダー、トレーダー・ヴィック。
この体験で得た自信と確信が、数々の名作を創造する原動力になったと語っています。
後にトロピカルカクテルのバイブルと言われる彼の著書『Trader Vic’s Bartender’s Guide』に収録され、世界に向けて羽ばたきました。
原点の不在
こうして広まったはずのカクテルですが、おかしなことに本家ロイヤル・バミューダ・ヨットクラブのメニューには今も昔も同名のカクテルは存在していません。
クラブの預かり知らないところでカクテルが生まれ、メニューに逆輸入されることすらなかった。
名前だけが一人歩きして、肝心のクラブには今も相手にされていないままです。
そしてそもそもの謎は、最初にメイボンがバミューダで飲んで絶賛した一杯——それは一体なんだったのか。
80年以上経った今、誰にもわかりません。
もしかしたら前回このブログで紹介した、バルバドスの定番ドリンク「コーン・アンド・オイル」だったのかもしれない。
発祥の地は確かにあるのに、その地にはもともと存在すらしていない。まさに出生不明の迷子のカクテルです。
つくってみた
実はマウントゲイ、世界110以上のヨット競技のスポンサーを務めるなどヨット文化と深いつながりがあります。
このカクテルにベースとして指定される理由がよくわかります。
逆にコアントローを使う理由は、正直つくってみるまでわかりませんでした。
前回のバルバドスカクテルでラム・ファレナム・ライムだけで十分完成されていて、わざわざオレンジのリキュールを足す意味は?と。
でもつくってみると、その疑問はすぐ消えました。
コアントローが他の3つの材料の間でクッション材のような役割を果たしていて、それぞれの主張をまとめ上げている。
出しゃばらない物静かな存在なのに、居てくれるだけで場がうまくまとまる。
そういう存在っていますよね。
名前の宙ぶらりん感とは反対に、味の完成度はかなりのものです。
バランスの良さとエピソードの面白さ、両方合わせてかなり好きな一杯になりました。
別のラムでもつくってみた
すっかり気に入ってしまったので、他のラムでも試さずにはいられませんでした。

- プラントレイ オリジナルダーク … 30ml
- ヴェルヴェット・ファレナム … 10ml
- コアントロー … 10ml
- ライムジュース … 10ml
プラントレイはバルバドス産ラムに加えてガイアナやジャマイカ産のラムもブレンドされているのでより複雑さや濃厚な糖蜜の風味が強い。
マウントゲイでつくったものはダイキリの良いアレンジという感じでしたが、プラントレイのバージョンはラム版のサイドカーのようなイメージ。
コクがあり、黒蜜やバナナのような風味。
とても洗練されたクオリティでいながら、廃糖蜜の力強さも感じる濃密な味わい。
ヨット文化の繋がりからマウントゲイを使うのがセオリーですが、ボディ感がしっかりあるプラントレイも捨てがたい。
気分で両方楽しもうという結論に至りました。
発祥の地には認められず、元のカクテルが何だったのかも闇の中。
それでもこの一杯がトレーダー・ヴィックを「天才」に変え、マイタイを世界に生んだ。
トロピカルカクテル文化の立役者として名を刻んだカクテルですが、自身の出自はいつまでも謎のままかもしれません。



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