24杯目!「バーナム・ワズ・ライト」〜カモは次から次へと生まれてくる〜

バーナムワズライト カクテル

『Barnum Was Right』——「バーナムの言ったとおり」。
映画『グレイテスト・ショーマン』のモデルにもなった19世紀の興行師、P・T・バーナムが残した有名な格言がある。
このカクテルを飲むと、その格言のとおりに哀れなカモになってしまうかもしれない。
そんなユーモアのある名前を持つカクテルと、改良したアレンジをご紹介します。


バーナム・ワズ・ライト

  • ドライ・ジン

    30ml
  • アプリコット・リキュール

    20ml
  • フレッシュレモンジュース

    10ml
  • アンゴスチュラ・ビターズ

    1dash

手法:シェーク グラス:カクテルグラス
仕上げ:レモンピール


名前の由来

「バーナム・ワズ・ライト」というカクテル名は、19世紀アメリカの興行師、P・T・バーナム(Phineas Taylor Barnum)が発した(とされる)有名な格言に由来しています。

その格言がこちら。

“There’s a sucker born every minute.”
(カモは次から次へと生まれてくる。)

そして、1929年に公開された、人々がいかに簡単に興行や宣伝に引き込まれ騙されるかをコミカルに描いたコメディ映画『Barnum Was Right』(バーナムの言ったとおり)。
カクテル名はこの映画タイトルからつけられたとされています。


P・T・バーナムとはどんな人物か

フィニアス・テイラー・バーナム(1810〜1891)は、アメリカの興行師・実業家・政治家。
1841年にニューヨークで「バーナムのアメリカ博物館」を開業し、当時の人々が見たことのないものを次々と世に送り出した人物です。

「親指トム将軍」の芸名で知られたパフォーマー、チャールズ・ストラットン。
「スウェーデンの夜鳴きうぐいす」と称されたオペラ歌手、ジェニー・リンドのアメリカ公演。
そして晩年には、ジェームズ・ベイリーと組んで「地上最大のショウ(The Greatest Show on Earth)」と呼ばれたサーカスを創設。
目玉の一つだった巨大なアフリカ象のジャンボは、その名が今も「大きなものの代名詞」として英語に残るほどの人気者でした。
その破天荒な生涯は、2017年の映画『グレイテスト・ショーマン』でヒュー・ジャックマンが演じたことで世界中に知られています。

誇張、演出、宣伝の天才——と同時に、展示の真偽については常に物議を醸す人物でもありました。


偽物の偽物と、裁判

バーナムの格言を語る上で外せない事件があります。
1869年、「カーディフの巨人」と呼ばれる捏造された石膏の化石がニューヨーク州の農場で「発見」されました。

デイヴィッド・ハナムらのグループがこの「巨人」の利権を購入して展示を始めると、バーナムは5万ドルで買い取りを申し出ます。
断られると、今度は独自にレプリカをつくり、「自分の方こそが本物で、ハナムの巨人は偽物だ」と宣伝して展示を開始。
すると人々はバーナムの偽物の偽物の方に多く列をなしました。
ハナムはこのことでバーナムを訴えましたが、裁判所の判断はこうでした。
「偽物の巨人を偽物と呼んだことで訴えることはできない」——。
バーナムの完勝です。

この裁判でどちらの巨人も偽物だったことが証明されてしまいますが、それでもバーナムの巨人には観客が絶えなかったといいます。

そしてこの偽物の化石に群がる人々の列を指してバーナムが言ったとされるのがあの格言でした。

「カモは次から次へと生まれてくる」——。

ただしこれには諸説あって、バーナムではなく、悔しさのあまりハナムが新聞に語ったものだという説や、ライバルの興行師アダム・フォアポーがバーナムの評判を落とすために彼の発言として流布したという話もあり、本人の言葉ではなかったという説も有力です。
真相は霧の中ですが、それでもこの格言はバーナムの名とともに世界中に定着しました。
バーナムの人生そのものが、その言葉に説得力を与えてしまったのかもしれません。


味わい

レシピはシンプルで、想像通りのカクテル。
似たカクテルのパラダイスをドライめにした味わいで、フルーティーでさっぱりしており、ジンとビターズの苦味がほのかなアクセントになっています。
甘く飲みやすいのにジンはしっかり入っている。
油断してスイスイ飲んでいると、あっという間に酔っ払ってしまい、哀れなカモになってしまう。
そんな意図を感じるレシピとネーミングだと思いました。

ただ正直なところ、古いレシピなのでシンプルすぎて味が少し平面的。
アプリコット・リキュールのチューペットっぽさが目立って、現代の味覚だとちょっとチープすぎる感じもします。


アレンジ

元のレシピをなるべく損なわずにチープさを補うようにアレンジしてみました。

バーナム・ワズ・ライト(アレンジ)

  • ドライ・ジン

    30ml
  • アプリコット・リキュール

    20ml
  • フレッシュレモンジュース

    10ml
  • メープルシロップ

    5ml
  • アンゴスチュラ・ビターズ

    2dash

手法:シェーク グラス:カクテルグラス
仕上げ:レモンピール

まずは味にコクを持たせるためにメープルシロップを加えました。
メープルシロップはバーナムが生まれ、市長も務めたコネティカット州の特産品です。
次にビターズを増やして風味の複雑さを高めています。
ボディ感が増してカクテルの骨格が強くなったので、ビターズを増やしても負けないようになりました。
深みが増して豊かな味になり、なかなか美味しくなったと思います。


表では禁酒、地下ではお酒

バーナムは1850年頃から晩年にかけて、禁酒運動の講演者として各地を回った人物でした。
破産の危機に陥った際も禁酒運動の演説で稼ぎ、借金を完済したと言われています。

そんなバーナムが経営するアメリカ博物館の地下には、「カクテルの父」とも呼ばれる伝説のバーテンダー、ジェリー・トーマスが経営するサロン(バー)があったと言われています。
炎を操る曲芸的なカクテル「ブルー・ブレイザー」で客を魅了し、史上初のカクテルレシピ本を著した男が、禁酒運動家の博物館の地下でお酒を注いでいた。なんとも皮肉な組み合わせです。

それにしても、アルコールを否定していたはずの自分が、まさかカクテルの名前にもなってしまうとは夢にも思わなかったはずです。


嘘だとわかっていても、面白いものには引き込まれてしまう。
潰れるとわかっていても、グラスに手をのばしてしまう。
カモは次から次へと生まれてくる。バーナムの言った通り。

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