26杯目!「12マイルリミット」〜酒のためなら、海の果てまで〜

12マイルリミット ウイスキーベース

禁酒法時代、お酒が禁止されていたはずのアメリカの周りの海には船上バーが並んでいました。
法の抜け道をかいくぐった人々と、その光景を切り取ったカクテルをご紹介します。


12マイルリミット(Twelve Mile Limit)

  • ホワイトラム

    20ml
  • ライ・ウイスキー

    10ml
  • ブランデー

    10ml
  • レモンジュース

    10ml
  • グレナデンシロップ

    10ml

手法:シェーク グラス:カクテルグラス


水平線に並ぶバー

1922年、12マイルリミットの前身となる「3マイルリミット」というカクテルがパリで生まれます。
当時、禁酒法の時代だったアメリカの海岸3マイルの位置には、たくさんの船が並ぶ異様な光景が広がっていました。

アメリカではアルコールが禁止されていた。
ただし、それはあくまで「アメリカの領海内」の話です。
当時の国際法では、海岸線から3マイルまでが領海。
そこから先は公海で、アメリカの法律は届かない。
この3マイルは18世紀の大砲の射程からきているそうです。

この法律を逆手に取って、領海外に停泊させた外国籍の船に乗り込み酒を飲む、という裏ワザが編み出されました。
「ここはアメリカじゃないから合法だ」という屁理屈です。

酒を満載した外国船が3マイルのすぐ外側に碇を下ろし、アメリカ人がボートで乗りつけて酒を買ったり、その場で飲んだりする。

沖合と本土を行き来してアメリカへ酒を持ち込んだり、客を沖の船へ送り届けたりする小船の乗り手たちは「ラム・ランナー(Rum Runner)」と呼ばれ、主に漁師が副業として従事していました。
危険を伴うが儲かる仕事として人気があったと言われています。

週末になると港から小型ボートが次々と沖へ出て、停泊した船に横付けされた。
こうした船が集まる海域は「ラム・ロウ(Rum Row)」——直訳すると「酒屋通り」と呼ばれていました。

法律の届かない海の上で飲む。
それがこの時代の、ちょっと粋な反抗でした。


3マイルリミット

禁酒法を逃れたアメリカ人たちはパリへも大挙して渡り、現地のバーに入り浸っていました。
「ハリーズ・ニューヨーク・バー(Harry’s New York Bar)」はそのひとつで、禁酒法時代のアメリカ人にとって大西洋を渡った先にある、自由の避難所のような場所だったと言われています。

このバーで故郷の「3マイルの境界線」を皮肉を込めてカクテルの名前にしたのが3マイルリミットの始まりと思われます。

レシピはこうです。
コニャック40ml、ホワイトラム20ml、レモンジュース1dash、グレナデンシロップ1tsp。

見てのとおりダブルスピリッツに申し訳程度の甘酸っぱさ。
念のためつくってみましたが、想像通りのものでした。
ネタとメッセージ性のためのレシピと思っていただければ。


12マイルリミット

密輸の横行に手を焼いたアメリカ政府は、取り締まりの範囲を12マイル(約22キロ)まで拡大します。
1924年のことです。

せっかく見つけた抜け道を4倍遠くへ押しやられましたが、ラム・ロウも船上バーもさらに沖へ移動して継続しました。
それどころか船はより大型化・高速化し、密輸はむしろ組織的に進化していった。
終わりではなく、舞台が外側へ広がっただけでした。

そしてこの規制強化に、ひとりのジャーナリストが反応しました。
トーマス・フランクリン・フェアファックス・ミラード(1868-1942)。
通称トミー・ミラード。
戦場を渡り歩いた従軍記者で、世界各地で筆を執り続けた人物です。

彼が考案したのが「12マイルリミット」でした。
3マイルリミットの骨格にライ・ウイスキーを加えたレシピで、1934年の新聞記事にその記録が残っています。

一応つくってみましたが、まぁ不味くはないです。
ただ、グレナデンシロップに頼った味になるので、必然的に「ジャックローズで良くないか」という話になってしまいます。
(ジャックローズはアップルブランデー・グレナデンシロップ・ライムジュースでつくるカクテルで、スピリッツとグレナデンと柑橘の組み合わせとして高い完成度を持った一杯です。)
わざわざ飲んでみるようなものではないと思いますが、ストーリーは面白い。

アメリカでつくられるライ・ウイスキーこそ、禁酒法でアメリカが規制したいお酒の筆頭。
それをあえて加えることに、意地みたいなものを感じます。

なお、日本ではサヴォイ・カクテルブック(1930年)での表記の違いがそのまま伝わり、3マイルリミットが「スリー・ミラーズ」という名前でカクテルブックに載っていることがあるようです。


今回はカクテル自体はあまりおすすめとは言えません。
しかし「酒を飲むためなら海の果てでも行ってやる」という執念で意地でも酒を飲もうと工夫する人たちの屁理屈と、その光景をそのままカクテルの名前にしてしまう発想は大したものだなと思います。
お酒が絡むと、人はなんでもやりますね。


当時最も人気があり流通していたライ・ウイスキーはオールド・オーバーホルトだったと思われます。こちらの記事もぜひご覧ください。

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