イギリスで現役最古とも言われる蒸留所、プリマス。
長い歴史を持つお酒には、それだけたくさんの「はじまり」がくっついてきます。
ギムレット、ドライマティーニ、ピンクジン——名だたるカクテルが、こぞって「元祖はプリマスだ」とこの一本を指名する。
そんな、「元祖」をいくつも持つジンをご紹介します。
プリマス・ジン
種別:ジン / プリマス・ジン(イングランド・プリマス)
アルコール度数:41.2%(オリジナル)/ 57%(ネイビーストレングス)
ボタニカル:7種
価格:約1,500〜2,000円(オリジナル)
修道院、監獄、そして蒸留所
プリマス・ジンがつくられているのは、ブラックフライアーズ蒸留所という建物です。
この建物、お酒よりもずっと長い来歴を持っています。
もとは1431年に建てられたドミニコ会の修道院だったと言われています。
それがヘンリー8世の修道院解散で取り上げられ、今度は借金を返せない人を放り込む債務者監獄に。
さらに時代が下ると、フランスから逃れてきたユグノー(プロテスタント)たちの避難所にもなったと言われています。
1620年には、新大陸を目指したピルグリム・ファーザーズがメイフラワー号で出発する前夜、この建物の食堂に集まったという言い伝えも残っています。
今のボトルに描かれているメイフラワー号は、この縁にちなんだものです。
そしてこの場所が蒸留所になったのが1793年。
以来ずっと同じ場所で酒をつくり続けていて、これがイギリスで現役最古の蒸留所とも言われる理由です。
ここで効いてくるのが、プリマスという土地そのもの。
イギリス海軍の一大軍港です。
港のすぐそばで生まれたこのジンは、やがて海軍と切っても切れない関係になっていきます。
ひとつのジンが生んだ、たくさんの「元祖」
当時の海軍では、一般の水兵にはラム、士官にはジンが配られていました。
そして士官たちが飲むジンといえば、軍港で生まれたプリマス。
1850年には、海軍が年間1,000樽以上を買い付けていたとも言われています。
つまりこの時代、「海の上のジン」はほぼプリマスのことだった。
だからこそ、海にまつわるカクテルをはじめ、いくつもの「元祖」がこの一本から生まれていきます。
ギムレットの元祖
壊血病予防のライムを将校が嫌がるので、海軍の軍医ギムレット卿がプリマスに混ぜて飲ませたのが始まり、と言われています。
薬として飲まされた一杯が、いまや大人気のカクテルに。
ドライマティーニの前身
ドライマティーニの前身とされる「マルグリット」という古いカクテルは、プリマスをベースにつくられています。
のちにウィンストン・チャーチルが「マティーニにはこれ」と惚れ込んだ話も有名で、映画監督のヒッチコックも愛飲者のひとりだったとされています。
ピンクジンの原点
船酔いの薬として使われたアンゴスチュラ・ビターズを、当時のロンドンのジンより少し甘みのあったプリマスに数滴。
ほんのり染まったその色から、ピンクジンと呼ばれるようになります。
ネイビーストレングスの命名
イギリス海軍が船に積むラムやジンは度数が57度ほどと、一般的な40度台よりもかなり強い。
やはり船乗りたちは荒々しいお酒を好むんだな、と思ってしまいがちですが、これは実は火薬にこぼしてしまっても問題なく着火できる、という実に納得のいく理由で採用されています。
もっとも、誰もがそのまま飲んでいたわけではなく、たいていは水で割っていました。
もともと海軍に納められていたこのハイプルーフ版のプリマスを、1993年に「ネイビーストレングス」という名前で復刻させました。
今ではハイアルコールのジンやラムの表記で度々使われるネイビーストレングスという言葉は、このときにプリマスのマーケ会議でつくられた造語と言われています。
ボトルの修道僧と、不器用な蒸留器
プリマスのボタニカルは7種類。
ジュニパー、コリアンダー、アンジェリカ、オリス、レモンピール、オレンジピール、カルダモン。
特徴はルート(根)系の比率が高いことで、柑橘の香りが引いたあとに、土っぽいような余韻が長く残ります。
キリッとしたロンドン・ドライとはひと味違う、丸みのある味わいです。
この味を生んでいるのが、160年以上使われている銅製の蒸留器。
ネックが短く、パイプが鋭角に曲がっているという、はっきり言って効率の悪い形をしています。
それでも変えない。
この不器用な形こそがプリマスの滑らかさの鍵だと、つくり手は信じているからです。
ちなみに昔のボトルには裏ラベルの内側に修道僧の絵があり、「足が乾いたら買い時」という合言葉がありました。
今もその名残で、ボトルのガラスに修道僧が浮き彫りで残っています。
酒飲みのための、なんとも気の利いた目盛りです。

修道院から数えて六百年、海軍と歩んで二百年。
海とともに過ごしたこの一本が、イギリスの酒文化にいくつもの「はじまり」を生んできました。



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