「カンチャンチャラです」
そう言ってお出しすると、必ず「なんて?」と聞き返されます。
ちょっと冗談みたいな語感と見た目のカクテルですが、実は由緒正しいキューバのカクテルなんです。
レシピ・基本情報
カンチャンチャラ(Canchánchara)
- ハバナクラブ3年
(またはアグアルディエンテ)40ml - ライムカット1/12個
- ライムジュース10〜15ml
- ハチミツシロップ
(ハチミツと温水を1:1で溶かしたもの)20ml - ソーダ(または水)30ml
手法:ビルド
グラス:素焼きのカップ(なければロックグラス)
アグアルディエンテを試してみる
アグアルディエンテとはキューバ産ラムの原酒となるサトウキビのスピリッツ。
ラムになる一歩手前の、まだ雑味や荒さが多く残るお酒です。
このアグアルディエンテを2年以上樽で熟成させた原酒と、アグアルディエンテをさらに蒸留したクリアなアルコールをブレンドして、ようやくキューバ産ラムになります。
普段はハバナクラブ3年とソーダで飲みやすいモダンなレシピをつくるんですが、今回は試しにキューバ産のアグアルディエンテを買って、ソーダではなく水を使い、より伝統的なつくり方も試してみました。
やはりラムと比べると雑味が結構気になって、苦手な方が多いかもしれません。
何杯か試してみましたが、わざわざマニアックなお酒を仕入れなくても、歴史だけ正しく理解して、美味しいラムで丁寧につくった方がいいなと思いました。
かわいい響き
カンチャンチャラという名前、初めて聞くとみんな「え?なんて?チャンチャンチャラ?」みたいに聞き返されます。
日本人の感覚だと、ふざけた擬音か何かに聞こえますよね。
気に入ってリピートしてくださる方も多いんですが、「この前のハチミツのお酒、なんだっけ?チャンチャラチャラみたいなやつ」と言われ、記憶にはばっちし残るのに正しく覚えられない、それがまた笑いのタネになります。
愉快な響きの名前ですが、実は150年以上前から飲まれていて、このカクテルの名を冠した「タベルナ ラ カンチャンチャラ」というレストランも存在します。
ふざけた響きの名前かと思いきや、トリニダの歴史を象徴する大真面目な名前です。
クマさんを連想する素焼きの器
カンチャンチャラは、丸みのある土色の素焼きの器に入ったハチミツのお酒。
正直、どこかの赤いチョッキを着た、ハチミツ好きのクマさんを思い出さずにはいられません。
でも実は、19世紀後半に生まれたとされるカンチャンチャラの元祖は、ひょうたんや土器などの、素朴な小椀で飲まれていました。
今の素焼きカップは、その土器を復刻したものです。
ただの可愛い雑貨に見えて、ちゃんと歴史のある形です。
どこか懐かしい、青春の味?
ラムの糖蜜の香りの後に柑橘とハチミツの甘さっぱりした味。
爽やかで飲みやすく、後味にはハチミツ特有のトロッとした甘い余韻が喉の奥に残ります。
日本人ならみんな(?)懐かしく感じる爽やかな甘さ。
そう。はちみつレモンにそっくりです。まさに大人のはちみつレモン、いや、はちみつライムといった味わいで、見た目通りの可愛さがそのまま口の中にも広がります。
ですがこの組み合わせ、実はただ美味しいから選ばれたわけでも、青春を懐かしんでつくられたわけでもありません。
もともとは過酷な戦場で戦う兵士たちのためにつくられた気付け薬・滋養強壮の薬でした。
まじめな歴史
その戦いとは1868〜1902年のキューバ独立戦争。
トリニダで戦っていたマンビ兵と呼ばれるゲリラ戦闘員たちのあいだで、過酷な山岳地帯やジャングルでの疲労や寒さをしのぐために広まったと言われています。
戦場となった地域でつくられていたアグアルディエンテに、エネルギー源のハチミツと、ビタミン源のライムを混ぜて飲んだのが起源とされています。
カンチャンチャラという名前はキューバの先住民のタイノ語に由来し、当時使われていた器のことを指す言葉だったのではないかと考えられています。
この酒が今のような形でトリニダの地酒として定着したのは、それから長い時を経た1980年代のこと。
市の建築博物館の調査チームが、1735年頃に建てられたという旧市街の歴史的建造物(元はスペイン公認の海賊の邸宅だったらしい)を修復した際、カンチャンチャラを街の目玉として打ち出す計画を立てました。
地元の陶芸家一家とともにあの丸いカップをデザインし、国営企業がこの建物で飲食店を開業。
看板メニューはもちろんカンチャンチャラです。
1994年にはカクテルからとった店名にかわり、今の「タベルナ ラ カンチャンチャラ」になりました。
調査に当たった学芸員は後にこう振り返っています。
「こんな小さくて素朴なものが、まさかシンボルになるとは思わなかった」
今、このタベルナの専用カップは観光客に人気で、多くの人が土産として購入するそうです。
カンチャンチャラは一説には、ダイキリやモヒートの原型のひとつとも言われています。
こうして辿ってみると、とても古くから存在する、由緒あるカクテルだということがわかります。
ネタっぽい名前とは裏腹に、実は歴史の古い、大真面目なカクテルです。
名前は覚えられなくても心に残り、きっとまたこう言われます。「あのチャンチャラチャンみたいなやつください。」



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